結論: 親が認知症などで意思能力を失うと、本人名義の実家は本人の意思では売れなくなります。意思能力がない状態で結んだ契約は無効だからです(民法3条の2)。売るには成年後見制度を使い、選任された成年後見人が本人に代わって契約しますが、居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が別に必要です(民法859条の3)。だからこそ、本人が元気なうちの備えが何より大切になります。
- 認知症で判断能力を失うと、本人名義の家は本人の意思では売却できなくなる
- 売るには成年後見人が必要だが、居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が要る
- 手続きは家庭裁判所・司法書士・弁護士へ。元気なうちの家族の話し合いが一番の対策
「実家を売ろうと思ったら、親が認知症で契約できないと言われた」——そんな状況にならないための基礎知識を、高松市の不動産会社が整理します。
なぜ認知症になると実家が売れなくなるのか
不動産の売買は「契約」です。そして契約が有効に成立するには、当事者が契約の意味を理解して意思表示できる能力——意思能力が必要です。
改正民法(債権法改正、2020年4月1日施行)で明文化された民法3条の2は、次のように定めています。
法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
つまり、**認知症などで意思能力を失った状態で結んだ売買契約は「無効」**になります。これは改正で新しくできたルールというより、それ以前から判例・通説で無効と解されてきた考え方が、条文としてはっきり書かれたものです。
実際の売買では、契約や決済の場で「ご本人が売る意思をお持ちか」の確認が欠かせません。ここで本人が内容を理解できていないと、後から契約が無効とされ、買主にも大きな不利益が及びます。だからこそ、判断能力に不安がある方の不動産取引は、実務でも慎重に扱われます。
なお、認知症といっても状態はさまざまです。判断能力がある程度残っている段階であれば、本人が理解したうえで売却できる場合もあります。ただし「どの程度残っていれば売れるのか」を素人判断で決めるのは危険です。医師の診断や専門家の関与のもとで、慎重に見極める必要があります。
成年後見制度とは
意思能力を失った方に代わって財産管理などを支える仕組みが、成年後見制度です。判断能力の程度に応じて、法定後見は次の3つの類型に分かれます。
| 類型 | 対象となる方の判断能力 |
|---|---|
| 後見 | 判断能力が欠けているのが通常の状態の方 |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分な方 |
| 補助 | 判断能力が不十分な方 |
いずれも家庭裁判所が本人の状態を審理し、成年後見人(保佐人・補助人)を選任します。選任された後見人が、本人に代わって財産の管理や契約を行い、本人を保護します。実家の売却も、この後見人が本人に代わって進めることになります。
法定後見のほかに、任意後見という制度もあります。これは本人が判断能力のあるうちに、「将来判断能力が衰えたら、この人に後見を頼む」と契約で決めておく制度です。元気なうちの備えとして知っておきたい選択肢です。
成年後見は、全国で利用が広がっています。最高裁によると、後見・保佐・補助・任意後見監督人選任の申立件数の合計は、年間4万件を超えています(最高裁・令和6年)。それだけ多くの家庭が、判断能力の問題に直面しているということです。
ただし、成年後見の申立てそのものや、その後の法律的な手続きは、司法書士や弁護士の専門領域です。当相談所が申立てを代わりに行うことはできません。制度を使うかどうか、どう進めるかは、家庭裁判所や司法書士・弁護士にご相談ください。
居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要
成年後見人がついても、実家がすぐ自由に売れるわけではありません。ここが見落とされがちな重要なポイントです。
民法859条の3は、成年後見人が本人に代わって、本人の居住の用に供する建物やその敷地を売却・賃貸・賃貸借の解除・抵当権の設定など(これらに準ずる処分を含む)を行うには、家庭裁判所の許可を得なければならないと定めています。
なぜ居住用不動産だけ許可制なのでしょうか。それは、住まいが本人の生活の基盤そのものだからです。本人が住んでいた・住む可能性のある家を後見人の判断だけで手放してしまうと、本人の生活に取り返しのつかない影響が出かねません。そこで、家庭裁判所が「本人にとって本当に必要か」を確認する仕組みになっています。
香川県で成年後見の申立てをする場合、管轄となるのは原則として本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。高松市など県内の多くの地域では高松家庭裁判所(〒760-8585 高松市丸の内2-27、JR高松駅から徒歩約7分)が窓口になります。ただし、お住まいの地域によっては丸亀支部などの管轄になる場合があるため、裁判所のサイトで確認してください。
売却の現場で実際に起きること
制度の話だけでなく、不動産の現場で実際に何が起きるのかも知っておくと安心です。
- 本人確認・意思確認がより慎重になる:判断能力に不安がある方の取引では、決済の場での確認が通常より丁寧に行われます。買主側も「後で契約が無効にならないか」を気にするため、慎重に進みます。
- 後見人の選任と裁判所の許可に時間がかかる:後見人の選任申立てから始まり、居住用不動産なら売却の許可も必要です。これらの手続きが売却スケジュールに上乗せされます。
- 買主が現れても待ちが生じることがある:条件の良い買主が見つかっても、許可が下りるまで契約・決済を進められない場面があります。
一般に、仲介での売却期間は3〜6ヶ月が目安ですが、成年後見が絡む場合は、これに後見人の選任や家庭裁判所の許可の期間が加わると考えておくと、無理のない計画が立てられます。焦って進めるより、早めに動き出して時間の余裕を持つことが結果的に近道です。
共有名義が絡む場合はさらに手続きが複雑になります。兄弟で相続した実家などのケースは共有名義の不動産を売却するにはもあわせてご覧ください。
元気なうちにできる備え
ここまで読むと、「認知症になってからでは大変だ」と感じられたかもしれません。裏を返せば、本人が元気なうちにできることはたくさんあるということです。
- 早めの家族会議:実家をどうするか(住み続けるのか、いずれ売るのか、誰が管理するのか)を、親の判断能力がしっかりしているうちに家族で話し合っておく。これが最も基本的で効果の大きい備えです。
- 制度を知っておく:判断能力があるうちに後見人を決めておく任意後見や、財産の管理を信頼できる家族に託す家族信託といった制度があります。どちらも本人が元気なうちにしか始められません(詳しい内容や向き不向きは司法書士・弁護士などの専門家にご相談ください)。
- 住み替えや売却の早期検討:将来空き家になりそうなら、元気なうちに売却や住み替えを検討しておくと、選択肢が広く残せます。売り時の考え方は実家の売却タイミングで解説しています。
「まだ元気だから大丈夫」と先送りにしているうちに状況が変わってしまうことは、現場でもよく見かけます。判断できるうちに、選択肢を家族で共有しておくことが、後々の負担を大きく減らします。
なお、相続の場面では登記の期限にも注意が必要です。相続登記は2024年4月1日から義務化され、取得を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料の対象になり得ます。空き家になった実家をそのままにしている場合は相続した空き家を売却するにはもご参照ください。
県外にお住まいの方へ
県外にお住まいで、香川の実家と親御さんの状況が気がかりな方は少なくありません。「親の判断能力が落ちてきたが、遠方でなかなか帰れない」「実家をどうすべきか決められないまま時間が過ぎている」——こうした悩みは、距離があるほど深くなりがちです。
だからこそ、親御さんが元気なうちに、帰省の機会に家族で話し合っておくことが大切です。そして、いざ売却を進めるとなっても、香川まで何度も足を運ぶ必要はありません。当相談所では、来県ゼロで売却を進められる仕組みを整えています。LINEでの写真のやり取りによる概算査定から、オンラインの重要事項説明(IT重説)と契約書の郵送まで、一度も帰らずに香川の実家を売却する流れにまとめていますので、あわせてご覧ください。
空き家のまま維持が必要な期間の管理については遠方の空き家の管理もご参考になります。
まとめ:手続きは専門家へ、売却の相談は当社へ
親の認知症と実家の売却は、法律・裁判所・不動産が絡む複雑なテーマです。役割を整理しておきましょう。
- 意思能力を失うと、本人名義の実家は本人の意思では売れなくなる(民法3条の2)
- 売るには成年後見人が必要で、居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が要る(民法859条の3)
- 成年後見の申立て・法律相談・登記・税務は、家庭裁判所・司法書士・弁護士・税理士へ
- 「この家は売れるのか」「いくらで売れるのか」といった売却・査定・管理の相談は、当社へ
当相談所は仲介専門の不動産会社です。手続きそのものはお手伝いできませんが、信頼できる司法書士・弁護士とも連携しながら、売却・査定・空き家管理の窓口としてお役に立てます。「まだ売ると決めたわけではない」という段階でも構いません。まずはお問い合わせからお気軽にご相談ください。LINEに実家の写真を送っていただくだけで、無料で概算の査定をお伝えできます。お電話(080-3649-4616)でも承っています。
出典・参考(2026年7月12日確認)





